椰子の話 

NISIKI KOTARO

 今 我が家はココナッツの収穫をやってまして、コプラを毎日乾かしているので独特の匂いが漂ってきます。椰子の種類は沢山あるのですが、フィリピンに有るのは ほとんどがココナッツを取るためのココ椰子です。終戦直後ココナッツが猛烈に儲かった時代に植えられた物が大部分で樹齢は皆50年を越えます。

 ココ椰子の寿命は約50年ですから、そろそろ全部が植え替えの時期です。政府も必死に苗や肥料を無料で配ったりして植え替えを奨励してますが、いっこうに進んでません。現在の木を切り倒して植え替えると実が生るまで7年掛かります。我が家でやっているように既存の木の間に植えてゆく方法だともう少し掛かります。8mから10m間隔で植えられているので、その間を使って農作物を作るよう政府が奨励してるのですが、それもほとんどやられてません。なんせ何もしないで3ヶ月待っていると収穫できますから楽なもんです。50年以上続いた習慣を変える気は無さそうです。

 そうです。彼らは基本的に豊かですから、我々のようにアクセクする必要がないんです。

 我が家の庭には272本のココ椰子があります。人を雇って、一本幾らの契約で登って貰い実を切り落とすので正確な本数が解る訳です。ちなみに収穫に要する人件費は現在一本につき3ペソ。

 ココ椰子は年々背が高くなりますから50年物では20m近くになります。私は高い所は好きですから一回だけ登ったことが有りますが、降りるときには登ったことを後悔しました。木に切り込みを入れてステップになっているんですが、その間隔が長い! こちらの人の方が足が長いようです。

 実は今思い出しても恐怖が。。。

 切り落としたココナッツは一カ所に集めて(これも結構人手が掛かる)地上に刺した鋭い木の棒で外側の皮を剥きます(100個で11ペソ)さらに内核を割り内側に付いている脂肪質の実を取り、皮を燃料にして乾燥させます。これがコプラと呼ばれ、ココナッツオイル等の原料になります。

 ちなみにココナッツジュースを取るのは実が若い時で、もうちょっとたつと内側にゼリー状の実がついて、これがブコと呼ばれます。

 完全に成熟した物は中身の水分も無くなりコプラに加工されます。外側の皮はコプラを乾燥する燃料になりますし、内側の堅い殻は地面に伏せて焼き、炭にしますから、どこも無駄になりません。勿論、葉や幹も建築材料になります(ただしあまり長持ちしない)。

 ココ椰子は熱帯では無駄なく使える有り難い木です。

 椰子の木の下でぼーっと立っていると、よく怒られます。実が落ちてきて危ないというわけです。

 実が落ちてくる理由は、ネズミやコウモリの食害に会って抜け殻になって落ちる場合とか、完全に熟して落ちてくる場合があります。家の庭でも時々ドスンという音でビックリさせられます。フィリピンにはこれだけ沢山の椰子が有りますから、日本の交通事故のように本日の死者何人なんて看板が有ってもおかしく無いじゃないかと、統計を探したんですが目下見つかってません。フィリピンの お役所は統計が好きで、正確さは別にして 何の統計でも有ります。仕事の半分は統計みたいですから、必ず有るはずです。

 そこで近所の部落で聞いて回りましたが、実際に死んだという例には当たりませんでした。しか大けがをした例は数例は有りました。これが木から落ちたという話になると、結構大勢落ちてます。

 椰子は木の先端から葉っぱが次々と出て、新しい葉が古い葉を押しのけて成長します。 葉の長さが殆ど同じのため、木の天辺で あの独特な丸い形が出来るわけです。半周して幹に平行に垂れ下がった葉は最後落ちてきます。人が落ちるのは、たいてい、この葉に捕まったり、座ったりした場合です。

       なんとかも木から落ちる。

なんとかは差別用語になりそうだったので省略。

 フィリピンはココ椰子製品の多分まだ世界一の生産国です。ルソン島中部以南が主ですが、見渡す限り、はるか山の上まで延々と続ずいたココプランテーションが見られます。

 フィリピンはコッポラの地獄の黙示録のロケ地として有名ですが、安く英語で使える俳優が、幾らでも居るので、ベトナムの代わりにフィリピンでロケされる映画多いです。ところが困ったことに、何処へ行っても整然としたココナッツ林ですから、すぐにバレてしまいます。

 私の家は海に面したココナッツ林の中に有ります。来られた方は、自然が一杯で、良いですね と言いますが、実はいわばココナッツのモノカルチャーですから、自然の多様性に全く欠け,自然は実に貧弱です。ココナッツ以外の木は全部切ってしまってますから、例えば小鳥の好むような実の生る木が殆ど有りません。最初来た頃は雀も居ませんでした。なんせ、飛んでる物を見つけるとすぐに空気銃を持ち出して撃ちます、今は家の敷地内は禁猟にして少しずつ木を植えてますから、やっと時々小鳥の声で目を覚ます状況になってきました。

     遠くから見ると熱帯の雰囲気をかもし出す椰子は
     実は自然の貧弱さの象徴。

nishiki@leyte

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