クトゥルフパンク。クトゥルフ神話とサイバーパンクとの融合。一見、それは成功しそうも無い組合せと思われるかもしれません。実際、サイバーパンクの「じゃりじゃりした」未来とH.Pラヴクラフトのコズミックホラーに何の共通性があるのでしょう。でも、あなたが思う以上にあるのです。
大きな虚無感は、サイバーパンクのジャンルにおけるフィクションの近未来では非常にありがちでした。史実の時代も、フィクションの時代も、近代における科学技術の爆発(虚無感の中では電話や自動車、サイバーパンクの中ではサイバースペースや宇宙ステーション)に加え、人殺しの工業会社の急増によって形作られていました。どちらの時代も、圧迫され、抑圧された大多数と、活動的で華麗に組織化された犯罪地下組織、そして果てしなく進む都市化が特徴だったのです。
パルプマガジンはその虚無感の反映でした。1940年代の漫画や1950年代のSF映画のように、パルプマガジンは当時のよっぽど上品な絵画技法よりも、もっとずっと正確にその10年間のムードを捉えていました。サイバーパンクは常に、その独特なムードの大部分をパルプマガジンから借りてきていました。それは、自分より金持ちで強い敵と相対する、「ハードボイルド」な探偵通りからやって来たミステリアスでロマンチックな一匹狼の物語でした。
勿論、クトゥルフ神話を提供した雑誌であるウィアードテイルズは、パルプマガジンの主流を形成していた探偵もの、西部もの、冒険ものとはほど遠い雑誌でした。ウィアードテイルズは、サイバーパンクを含む全ての現代SFがその基礎を成したSFマガジンとも殆ど共通点を持っていませんでした。にも関わらず、ウィアードテイルズはその時代の所産であって、パルプマガジンの伝統とサイバーパンクのジャンルはリンクしているのです。
サイバーパンクとクトゥルフ神話が一緒である別の点としては、両者が共に疎外に関係したジャンルであるということです。双方の物語の主人公は通常、感情的に、社会的に、あるいは両方の意味で、社会の主流からは切り離されています。彼らは孤立のうちに、彼らを堕落させて自らの目的のために利用しようとする執念深い力の絶好の犠牲者となるのです。主人公達は抵抗し、時にはしばしの休息や自らの救済を勝ち得ますが、広い視野で見れば、勝ち目の無い戦いを続けているのです。ティンダロスの猟犬もサイバー忍者も、貴方の死を望んでいるという点では大して違わないのです。
結局、ラヴクラフトの神話は過去、現在、未来に渡るほとんどいかなる設定の文学ジャンルをも包括できるに足るほど巨大なのです。もし、旧支配者が1930年代にここにいたならば、彼らは今もここにいるし、来世紀にもまだいるでしょう。我々はいないでしょうが、彼らはいるでしょう。
『ガープス・クトゥルフパンク』はケイオシアム社の古典的ホラーRPG、『クトゥルフの呼び声』のライセンスを受けた改作です。それ故、本書はオリジナルストーリーに可能な限り忠実に書かれている(オリジナルストーリーと本書の設定の時代的差異は示されます)のみならず、『クトゥルフの呼び声』の雰囲気を出来るだけ綿密に再現するようにかかれています。
しかし本書は、『ガープス・クトゥルフの呼び声』ではありません(ケイオシアム社は大らかにも、スティーブ・ジャクソン・ゲームズが近未来宇宙のワールドブックを創るにあたって、『クトゥルフの呼び声』の要素をガープスに改作する権利を与えたのです)。本書は、読者がケイオシアム社のあらゆる出版物をガープスに当てはめるようにデザインされたものではありませんし(もし本当に『クトゥルフの呼び声』をシステムをガープスに当てはめたいなら、助けとなるものはたくさん載っていますが)、我々はクトゥルフ神話について知られ得る全てのことを提示しようとしているわけでもありません。我々がしようとしている事は、完成した楽しいゲーム世界をそのまま示す事です。本書があれば、GMはキャンペーンをいつまでも続けるに足る情報を得られるでしょう。一方同時に、本書はそれ自体生物やシチュエーションを創ったりつくりかえたりするための強固な枠組も提供するでしょう。
更なるガープスと『クトゥルフの呼び声』のクロスオーバーはあるのでしょうか。正直、分かりません。『クトゥルフパンク』はケイオシアム社とスティーブ・ジャクソン・ゲームズの間の一冊に限った契約のもとで作られましたが、もしこのプロジェクトが成功を収め、読者の声が十分に高まれば、将来的には再度の契約が結ばれるでしょう。−恐らく、『ガープス・クトゥルフパンク』の展開(個人的には、『ガープス・クトゥルフパンク・アドベンチャー』の発刊を求む声が大きいのではないか、と思っています)、即ちガープスと『クトゥルフの呼び声』のクロスオーバーがいつの日か決まる事でしょう。
とにかく、隠された未来への観光旅行を楽しんでください。その未来は、我々自身の未来かもしれません。
Chris McCubbinはフリーのライター、ゲームデザイナーです。テキサス州オースチンに妻
Lynette Alcornと、どうしても欠かせない2匹の猫、Polychrome及びClipper と共に住んでいます。
本書はガープス関連書の中で彼が著した9番目の本です。彼の近々の作品としては、ゲーマーズチョイス賞を得た『ガープス・ファンタジーフォーク』や、Spider
Robinson の小説、「キャラハン・タッチ」に名を残した作品である『ガープス・キャラハンズ・クロスタイム・サルーン』などがあります。彼は以前は今は亡きファンタグラフィックブックス社のアメイジング・ヒーローズマガジンの編集者であり、同時にいとおしく懐かしいオートデュエル・クウォータリーの編集者でもありました。彼はピラミッド誌で定期的にゲームレビューもしており、ホワイトウルフマガジンのゲーム社会のポピュラーカルチャーを扱う月1コラム「親の地下室の外へ」も連載しています。
ChrissのE-mailアドレスは cwm@io.com です。
・他のガープス関連書
『ガープス・クトゥルフパンク』をプレイするためには、プレイヤーは『ガープス・ベーシックセット』と『ガープス・サイバーパンク』を持っているだけで良いのですが、SF、ホラー、ファンタジーの融合の際には、クトゥルフパンクのキャンペーンの効果を著しく増大させるたくさんのガープス用サプリメントがあるのです。
勿論、キャンペーンに最も有用な追加ソースブックは、ガープスの本ではなく、ケイオシアム社の『クトゥルフの呼び声』第5版です。この本こそ『ガープス・クトゥルフパンク』に登場する全てのラヴクラフト伝承のソースであり、クトゥルフ神話の詳細とその様相がつぎ込まれています。その他の『クトゥルフパンク』のGM向けの興味深い『クトゥルフの呼び声』のサプリメントは124ページに載っています。
「最も有用なサプリメント」の範疇において大差なく次点を得た本は、『ガープス・サイバーワールド』です。
Paul Hume が著した、完全な近未来サイバーパンクの設定書です。『ガープス・サイバーワールド』はあり得るもっともらしい暗い未来における政治、文化、犯罪、技術の詳しい背景を述べた、今ある限り最高のソースです。『ガープス・クトゥルフパンク』の世界は、『サイバーワールド』をベースとして利用しています。旧支配者の活動を覆い隠す表面的な現実として、ですが。
ちょっと面白い他のソースブックとしては次のようなものがあります。
『ガープス・ベスチャリー』:実在の動物の膨大なカタログに加え、本書はライカンスロープや他のシェイプ・チェンジャーの作成ルールやプレイについての徹底的なセクションを特徴としています。そういったワー・キャラクターはどんなホラーキャンペーンにおいても、NPCあるいはPCとして素晴らしい財産になり得ます。
『ガープス・クリーチャーズ・オブ・ザ・ナイト』:本書はホラー・モンスターの包括的なコレクションであり、それらのモンスターの多くは旧支配者の潜在的従者として十分に異質で邪悪なものたちです。もし、GMが直接的には神話からやって来たのではない、新しく成熟しきった脅威を欲するなら、本書が出所となります。
『ガープス・エスピオナージ』:本書は、作戦のターゲットが旧支配者のデス・カルトであれ、多国籍のメガ・コープであれ、潜入、転覆、破壊活動の見事な業についてのロールプレイヤーの最高のガイドです。
『ガープス・ハイテック』:火器を欲するならば、本書は近代、そして旧式の銃器の強力なソースとしていくべきところです。長期的には、銃器が貴方に何らかの利益をもたらす、というわけではないけれど…。
『ガープス・ホラー』:ホラーRPGについてのオリジナルなガープスのソースブックで、雰囲気作りや怪物の創造、多様な異なるホラーのジャンルや設定を真似るのに価値あるアドバイスが含まれています。
『ガープス・イルミナティ』:『ガープス・クトゥルフパンク』の根底にあるテーマは、本質的には、我々皆が気付かぬうちに世界を支配している隠れた力に徐々に気付いていく、ということです。『ガープス・イルミナティ』は、偏執狂や陰謀の世界をロールプレイする際に有効な多くの視点を与えます。陰謀をめぐらせるのが旧支配者自身であれ、利潤に飢えた企業であれ、狂信者の小集団であれ。
『ガープス・マジック』『ガープス・グリモア』『ガープス・レリジョン』:『マジック』や『グリモア』には、神秘性を帯びたキャンペーンのための神話を起源としない呪文が豊富に集められています。『レリジョン』は、主にシャーマニズム的な秘教の扱いに寄与します。しかしクトゥルフ神話の神話的な面に魅せられた人は、本書の神話や宗教の部分に多くの有用なコンセプトを見出すでしょう。
『ガープス・サイオニクス』:もし、GMが、PCたちが奇妙な力と出会うキャンペーンを行いたいのなら、避け得ぬもう一つのソースです。
『ガープス・スペース』:GMがより高いテックレベルでキャンペーンを行いたい、あるいは外宇宙的な設定までテックレベルを上げたいと考えるならば、本書にはたくさんの役立つ情報があるでしょう。
『ガープス・サポーティングキャスト』:デザインし終わり、成長したたくさんのキャラクターが含まれています。彼らは近未来の設定のために特別にデザインされたか、あるいはそういう設定に適応できるようになっています。
『ガープス・ウルトラテック』:ものごとの技術面を探索したいと思う人のための、未来的な武器や器具の集合です。
『ガープス・ビークル』:この本によってGMは独自に未来の乗り物をデザインする事が出来ます。
『ガープス・ヴァンパイア:マスカレイド』『ガープス・ヴァンパイアコンパニオン』『ガープス・ワーウルフ:アポカリプス』『ガープス・メイジ:アセンション』:ホワイトウルフ社のベストセラーゲームであるワールドオブダークネスを基盤としています。ワールドオブダークネス社の独特なホラーは、クトゥルフ神話のコズミックホラーと融和し得、三つの古典RPGのダイナミックな組合せを生みます。